生薬とは、植物・動物・鉱物などの天然物を簡単に加工して用いる薬のことを指しますが、ほとんどの生薬は薬草や薬木といった植物由来です。もちろん植物によって旬は異なるため、春夏秋冬、それぞれの季節の生薬があると言えます。ここでは季節ごとに、生薬として用いられる薬草と薬木を紹介いたします。
春の薬草 カタクリ:ユリ科生薬名:片栗粉(かたくりこ)
カタクリ
カタクリの花
寺井の上の 堅香子の花 大伴 家持
- もののふの
八十おとめらが
くみまがふ
寺井の上の
堅香子の花大伴 家持
万葉集で大伴家持が詠ったこの歌の堅香子はカタクリのことで、清水を汲みながら談笑する乙女らの笑い声とその傍に咲く可憐なカタクリの花がもうすぐ春がやってくることを告げていて、喜びに満ち溢れている万葉の秀歌のひとつです。
カタクリの名前の由来は、花がうつむいて咲くので「かたむいて咲くユリ科の花」で「カタコユリ」から変化して「カタクリ」と名付けられたとする説や、カタクリの球根が、栗の片割れに見えたために「片栗」と名付けられたという説もあります。
日本では各地に自生していますが、主に北海道や本州の北中部に多く、春の初めにギボウシに似たやや長い葉の間から花茎をぬいて、その先に紫紅色の美花をひとつ下向きにつけます。そして、夏を待たずに地上部が枯れ休眠してしまいます。
地下20~30センチくらいの深さにあるカタクリの鱗茎(球根)を砕いてすりつぶし、水を加えて何度も木綿で漉し、沈殿させると白いカタクリデンプンが下に溜まります。水だけを捨て、沈殿物を乾かすとカタクリ粉のできあがりです。
よくスーパーマーケットなどで見かける片栗粉のほとんどはジャガイモデンプン(馬鈴薯など)が原料になっていますが、こちらが本来の片栗粉の原料のカタクリです。
食用として、葉をひたしものに、鱗茎は甘煮やカタクリ飯として食します。
薬用として、片栗粉をすり傷・おでき・湿疹にふりかけたり、内服には、嘔吐、下痢、胃腸炎などに効果があり、また、良質で消化が良いので病後の滋養にも用いられます。
イーバンアト研究所 所長 薬学博士
田部昌弘