生薬とは、植物・動物・鉱物などの天然物を簡単に加工して用いる薬のことを指しますが、ほとんどの生薬は薬草や薬木といった植物由来です。もちろん植物によって旬は異なるため、春夏秋冬、それぞれの季節の生薬があると言えます。ここでは季節ごとに、生薬として用いられる薬草と薬木を紹介いたします。
春の薬草 ハハコグサ:キク科生薬名:鼠麹草(ソキクソウ)
- ハハコグサ
- ハハコグサの花
草を練りこんだ餅を草餅と言います。
今はヨモギを使って草餅を作りますが、古くはハハコグサを用いて作られ、母子餅とよばれていました。
餅に草を練りこむ風習は、草の香りには邪気を祓う力があると信じられ、上巳の節句(旧暦3月3日)に母子草を混ぜ込んだ餅を食べる風習が中国より伝わって、平安時代には宮中行事の一つとして定着しました。
江戸時代には女子の健やかな成長を願う雛祭りとして広まってきました。当時の雛祭りに供える菱餅は餅の白と草餅の緑の二色で作られていました。
その頃から、母と子を搗くことは縁起が悪いとして避けられ、ハハコグサ(母子草)に代わりヨモギ(蓬)を用いる草餅になってきたのです。
ハハコグサは春から初夏に細かい黄色い花を密に咲かせる春の七草のゴギョウ(御形)です。中国からインドシナ、マレーシア、インドに分布していますが、日本へは古代中国または朝鮮半島から渡来し、今では日本の北海道から九州にまで生育しています。
生薬は、葉に毛があり鼠の耳のような形をしていることと花が粒状で黄色の麹(こうじ)に似ていることからソキクソウ(鼠麹草)と呼ばれています。
鎮咳、去痰、扁桃炎、のどの腫れなどの呼吸器疾患の症状に用いられていますが、利尿作用のあることから急性腎炎に伴うむくみに用いられることもあります。
また、若葉は粥や天ぷらの食材としても用いられます。
イーバンアト研究所 所長 薬学博士
田部昌弘