生薬とは、植物・動物・鉱物などの天然物を簡単に加工して用いる薬のことを指しますが、ほとんどの生薬は薬草や薬木といった植物由来です。もちろん植物によって旬は異なるため、春夏秋冬、それぞれの季節の生薬があると言えます。ここでは季節ごとに、生薬として用いられる薬草と薬木を紹介いたします。
春の薬草 ナルコユリ:ユリ科生薬名:黄精(オウセイ)
- ナルコユリの花
- ナルコユリの葉
- アマドコロの花
ナルコユリは日本が原産のユリ科の多年草で、5月ごろに葉と茎の付け根から花柄を出し、鈴が連なるように緑白色の筒状の花を3~8個ぶら下げます。
その様子が鳴子(雀を追い払うための数本の竹筒を下げた板)に似ていることからナルコユリと名付けられています。
生薬を黄精と言い、ナルコユリの根茎を使いますが、中国では、カギクルマバナルコユリが使われています。
江戸時代には、滋養強壮の民間薬として盛んに利用されました。
小林一茶も愛飲したことが、彼の「七番日記」に記されています。
一茶は、52歳から65歳で亡くなるまで12年間に3人の妻を迎え、5人の子を儲けたという精力絶倫は、黄精酒のおかげだったのでしょうか。
また、東北地方から来た黄精売りが江戸の街々を売り歩いたのは砂糖漬けの黄精で、「切見世へ黄精売りは引っ込まれ」の川柳があるように、遊女も客も強精薬の黄精の砂糖漬けに飛びついたのです。
このナルコユリによく似た植物に同属のアマドコロがありますが、ナルコユリとの鑑別は、茎が円柱形のナルコユリに対して、アマドコロは少し角ばっています。花柄に付く花の数も1~2個と少なく、見分けは難しくはありません。
根茎を生薬の萎蕤(イズイ)といい、ナルコユリと同じように、滋養・強壮に使われます。