生薬とは、植物・動物・鉱物などの天然物を簡単に加工して用いる薬のことを指しますが、ほとんどの生薬は薬草や薬木といった植物由来です。もちろん植物によって旬は異なるため、春夏秋冬、それぞれの季節の生薬があると言えます。ここでは季節ごとに、生薬として用いられる薬草と薬木を紹介いたします。
冬の薬草 カンアオイ:ウマノスズクサ科生薬名:土細辛(ドサイシン)
カンアオイ(寒葵)、別名カントウカンアオイは日本固有種で、本州(千葉県~東海地方)の太平洋岸に分布しています。
カンアオイの命名は冬にも葉が枯れず緑色であり、葉の形がアオイの葉に似ていることからきています。
ただ、このカンアオイの仲間は日本だけでも60種以上に上ります。
花は10月から2月に土に埋もれた状態で咲き結実するため、種の散布範囲が狭く、分布を拡大する速度が極めて遅い植物です。
そのため、分化も複雑で、地域ごとに種が異なっています。ミチノクカンアオイ、コウヤカンアオイ、スズカカンアオイをはじめとして地域に特有の形態を有しています。
なお、このカンアオイの仲間は岐阜蝶の食草として知られています。
薬草としては、開花期に根茎と根を掘り起こし、水洗い、乾燥、陰干しして用います。
ウスバサイシン(生薬:細辛)と比較すると、香気が弱く、薬効も弱いため土細辛と呼ばれていますが、鎮咳、発汗、胸痛などに用い、鎮静作用が期待されます。
このカンアオイの花の色は暗紫色で、葉に隠れて土から少し顔をのぞかせて咲くことで、あまり俳人や歌人の目に留まらないのでしょうか。詩歌の少ない植物です。
崖の陽の零れを掬ふ寒葵 大岡千代子
寒葵かがめば影をふやしたり 小田切輝雄
軒下の日に咲きにけり寒葵 村上鬼城