生薬とは、植物・動物・鉱物などの天然物を簡単に加工して用いる薬のことを指しますが、ほとんどの生薬は薬草や薬木といった植物由来です。もちろん植物によって旬は異なるため、春夏秋冬、それぞれの季節の生薬があると言えます。ここでは季節ごとに、生薬として用いられる薬草と薬木を紹介いたします。
夏の薬草 コウホネ:スイレン科生薬名:川骨(センコツ)
コウホネは6月から9月にかけて、小川や沼地に葉の間から長い花茎を水上に伸ばして直径5センチばかりの黄色い花を咲かせますが、黄色い花弁のように見えるのは蕚片で、その中にある花弁は雄蕊が変形したものです。コウホネの仲間には尾瀬の夏を謳歌するオゼコウホネと北海道にはネムロコウホネが生育しています。
コウホネの葉は、地上部では長卵形で茎部はやじり形をしていますが、水中葉は流れのあるところでは帯状になることもあります。
泥の中に横に伸びた親指くらいの太さの根茎は背骨に似ているため川骨(かわほね)と名付けられました。
この根茎を川骨(センコツ)と称し生薬として使います。この生薬には不快な臭いと味があります。
漢方では、駆瘀血(血の滞り)薬として、打撲の折に服用する治打撲一方(川骨、川芎、槲皮、桂枝、甘草、丁子、大黄)に配剤されています。
また、止血薬、強壮薬として、月経不順や産前産後の出血などの婦人疾患に多く用いられています。
このコウホネは日本各地や朝鮮半島に広く分布し、多く栽培されることで、多くの俳人がコウホネを詠んでいます。
河骨の水を出兼る莟(つぼみ)かな 正岡子規
水迅し河骨の黄が遡(さかのぼ)る 長井貝泡
河骨に水のわれゆく流れかな 芙水