生薬とは、植物・動物・鉱物などの天然物を簡単に加工して用いる薬のことを指しますが、ほとんどの生薬は薬草や薬木といった植物由来です。もちろん植物によって旬は異なるため、春夏秋冬、それぞれの季節の生薬があると言えます。ここでは季節ごとに、生薬として用いられる薬草と薬木を紹介いたします。
秋の薬草
カラスウリ:ウリ科生薬名:王瓜根(オウガコン)・土瓜根(ドカコン)
キカラスウリ:ウリ科生薬名:栝楼根(カロコン)
カラスウリの花は日没後から開花し、翌朝、日の出前には萎みます。私たちには目立たない花になった理由は、受粉のため夜行性の大型のスズメガを引き寄せるためであると考えられています。8、9月ごろに、花弁の先が糸のように細く切れ込んだ白い花を咲かせ、晩秋には雑木林や垣根の木に巻き付いてぶら下がっている楕円形の朱赤色の実をよく見かけます。
カラスウリの命名には諸説があって、「烏が好んで食べるから」(新井白石説)」は、「烏が食べているところを見たことがない」との異論が出て、それではと「赤い果実が樹上に長く残るのは、烏がたべのこしたから(牧野富太郎説)」は、少し説得力にかけます。
一方、中国伝来の朱墨の原料である卵大の辰砂に似ていることから、唐朱瓜(カラシュウリ)が転じてカラスウリになった、との説が納得できるかと思えます。
肥大した根を乾燥させたものを「王瓜根(オウガコン)」といい、発熱や熱性の便秘、黄疸、利尿、閉経、母乳の出の悪い時に用いる外、すり潰してデンプンを取りだし、葛粉のように用いたり、救荒食糧として保存したりします。
種子は、母乳の出の悪い時に用いますが、妊婦には禁忌です。
果実は直接皮膚にすり込み、ひび、しもやけなどの肌荒れ防止に使います。
カラスウリによく似た植物にキカラスウリがあります。カラスウリと同様に、6月〜9月にかけての日没後から開花し、翌日午前中から午後まで開花し続けます。花は白色か、やや黄味がかった白色で、花先は糸状になり、カラスウリよりも太く、果実は9〜11月頃には黄熟します。
秋から初冬に根を掘り出し乾燥したものを栝楼根(カロコン)といい、催乳、排膿、鎮咳、解熱、止渇を目標に漢方に用いられています。また、天花粉(天瓜粉)の原料として使われています。
カラスウリを詠んだ句に夜に咲く花の句は見当たらず、ほとんどが赤い実を詠んでいます。
溝川や水に引るる烏瓜 一茶
蔓切れてはね上がりたる烏瓜 高浜虚子