家庭薬の昔 日々進歩する家庭薬の昔をお伝えします!

季節の生薬について

生薬とは、植物・動物・鉱物などの天然物を簡単に加工して用いる薬のことを指しますが、ほとんどの生薬は薬草や薬木といった植物由来です。もちろん植物によって旬は異なるため、春夏秋冬、それぞれの季節の生薬があると言えます。ここでは季節ごとに、生薬として用いられる薬草と薬木を紹介いたします。

春の薬木 コブシ:モクレン科生薬名:辛夷(シンイ)

  • 春の薬木 コブシ:モクレン科 生薬名:辛夷(シンイ)

    コブシ 花

  • 春の薬木 コブシ:モクレン科 生薬名:辛夷(シンイ)

    コブシ 蕾

  • 春の薬木 コブシ:モクレン科 生薬名:辛夷(シンイ)

    コブシ 実

1972年9月29日、日本は中国共産党が率いる中華人民共和国と国交を結ぶこととなりました。田中角栄首相と周恩来首相が共同声明を発表し、条約に署名して、日中国交正常化がなされました。
その頃、日中で流行っていた歌に、千昌夫の「北国の春」があります。
  白樺 青空 南風
  こぶし咲くあの丘
  北国の ああ北国の春

コブシは北国では寒くて長い冬に終わりを告げ、やっと春がめぐってきたことを実感させてくれる花木です。毛に覆われた堅い蕾が徐々に開き、真白な花弁が覗くころには、春の香りが野一杯に広がり始めます。

モクレン科のコブシは九州、本州、北海道及び済州島に分布していて、学名はMagnolia kobusで、コブシがそのまま学名になっています。 日本では「辛夷」という漢字を当てて「コブシ」と読みますが、中国ではモクレンを指しています。
コブシの仲間には、モクレン(白モクレン、紫モクレン)、タムシバ(ニオイコブシ)などがあり、これらの毛におおわれた蕾を生薬では辛夷(シンイ)と呼び、鎮静、鎮痛薬として、頭痛、頭重感などに用いられています。漢方薬の辛夷清肺湯や葛根湯加川芎辛夷にも配合され、鼻づまり、蓄膿症、慢性鼻炎を目標に服用します。また、樹皮は煎じてお茶の代わりや風邪薬として飲まれています。
なお、コブシの名は果実の形が拳(こぶし)に似ているところから付けられた名前です。

辛夷は、多くの俳句や川柳に詠まれていますが、子規や虚子はコブシの蕾を詠んでいます。

  花籠に 皆 蕾なる 辛夷かな   子規
  立ちならぶ 辛夷の蕾 行く如し  虚子