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季節の生薬について

生薬とは、植物・動物・鉱物などの天然物を簡単に加工して用いる薬のことを指しますが、ほとんどの生薬は薬草や薬木といった植物由来です。もちろん植物によって旬は異なるため、春夏秋冬、それぞれの季節の生薬があると言えます。ここでは季節ごとに、生薬として用いられる薬草と薬木を紹介いたします。

秋の薬草 オミナエシ:オミナエシ科生薬名:敗醤(ハイショウ)

  • 秋の薬草 オミナエシ:オミナエシ科生薬名:敗醤(ハイショウ)

    オミナエシ

  • オトコエシ

    オトコエシ

オミナエシは、『万葉集』に
秋野爾あきののに 咲有花呼さきたるはなを 指折およびをり 可伎数者かきかぞふれば 七草花ななくさのはな 芽之花はぎのはな 呼花葛花おばなくずばな 瞿麦之花なでしこのはな 姫部志をみなへしまた藤袴ふじばかま 朝顔之花あさがおのはな
と山上憶良が詠った秋の七草のひとつです。『万葉集』には十四首、『古今和歌集』には十七首が詠まれ、『源氏物語』などの平安時代の文学にもよく登場します。中でも、能楽『女郎花』(おみなめし)は、小野頼風とその妻の話で、頼風に捨てられたと誤解した妻が川に飛び込んで自殺。妻を墓に埋めると、そこに女郎花が生え、頼風が近づくと、女郎花は風で逃げ、離れるとまた元に戻る。それを見て妻が自分を拒絶しているのだと思い、妻と同じ川に飛び込んで自殺する。恋慕に沈んだ男女の地獄の有様を謡う夢幻能です。女郎花の花言葉は「はかない恋」。

オミナエシは日本、朝鮮、中国などの東アジアに分布し、秋の日当たりのよい山野に、三、四ミリほどの小さい黄色い多数の花を咲かせます。姿はほんのりとした佇まいですが、全草は少し異臭があって、乾燥すると醤油の腐った臭いがすることから、生薬名として「敗醤」の字があてられました。

敗醤には成分として、イリドイド配糖体のモルロニシド、ビロシド、ロガニン、サポニンなどが含まれ、抗菌、鎮静作用が確認されています。民間では消炎、解熱、排膿、浮腫などに使われてきました。また、精油が含まれるため、血行を良くし、鬱血(瘀血)を解消させる効果もあります。

オミナエシ(女郎花)の仲間に白い花をつけるオトコエシ(男郎花)がありますが、このオトコエシから調製されたものを白花敗醤として用いています。