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季節の生薬について

生薬とは、植物・動物・鉱物などの天然物を簡単に加工して用いる薬のことを指しますが、ほとんどの生薬は薬草や薬木といった植物由来です。もちろん植物によって旬は異なるため、春夏秋冬、それぞれの季節の生薬があると言えます。ここでは季節ごとに、生薬として用いられる薬草と薬木を紹介いたします。

秋の薬木 ナツメ:クロウメモドキ科生薬名:大棗(タイソウ)

  • 秋の薬木 ナツメ:クロウメモドキ科
  • 秋の薬木 ナツメ:クロウメモドキ科

ナツメは南西アジア~南ヨーロッパを原産地としている低木から小高木の落葉樹です。5月ごろに葉の脇に淡緑色の小花を密生させ、秋には楕円形の、はじめは淡黄色で熟すと暗赤色の実を付けます。 ナツメの名は、「夏に芽が出る」という説や「夏梅(ナツウメ→ナツメ)」や「夏実(ナツミ→ナツメ)」由来のものなど諸説あります。茶道具の抹茶を入れておく棗(ナツメ)はこのナツメの実に似ていることから名付けられました。 熟した果実は生食したり、干して菓子などの材料として用いられていますが、漢方薬の生薬「大棗」として通経、利尿、関節炎、腰痛の効能があり、また生姜と組み合わせで、免疫力を高めたり副作用の緩和などを目的に多くの処方に配合されています。 ナツメの葉に含まれるジジフィンという物質には、甘みを感じなくする作用があります。葉をしばらく噛んだ後に砂糖などの甘味成分を含んだ食物を食べても甘みを感じません。舌の先にある甘みを感じる味蕾の甘味受容体の働きを阻害するからです。従って、甘味食品への食欲減退効果が期待されます。 「祇園の鴉愚庵の棗喰ひに来る」という正岡子規の句がありますが、「棗多き古家買ふて移りけり」の句もあり、病床の子規には「ナツメ」が必要だったのかもしれません。