家庭薬の昔 日々進歩する家庭薬の昔をお伝えします!

季節の生薬について

夏の薬草・薬木

夏の薬木 クチナシ:アカネ科生薬名:山梔子(サンシシ)

日本の伊豆半島以西の暖地に自生するクチナシは、梅雨頃に甘い薫りを漂わせる白い花を咲かせます。園芸店で売られているのは八重咲きのハナクチナシという品種が多く、清楚な一重咲の、一般にクチナシと呼ばれる自生種と比べると趣が少ないように思えます。また、クチナシの原種と言われているコリンクチナシは、クチナシより花がやや小さく、花数が多く、きりりと引き締まった品の良さがあります。中国では、このクチナシを、水梔子とよび、コリンクチナシを山梔子とよんでいます。 壺形の果実は、夏場は暗緑色で目立ちませんが、秋になると黄色から橙色に変化します。生花にも使われますが、果実は乾燥し、黄色染料として布地の染色、沢庵漬けや栗キントンの着色に使われています。なお、八重咲きのものは果実がなりません。 薬用として、多くの漢方処方に配合され、性味は苦・寒とし、熱性病による不眠、精神不安、黄疸、体内・眼の出血などの諸症状にもちいられています。 民間薬としては、古くから、消炎、利胆、止血剤として、服用される他、外用としてサンシシ末を卵黄とそば粉で練り合わせ、打ち身、捻挫、腫れものなどの消炎剤としても使われてきました。 口なしの花さくかたや日にうとき蕪村
山梔子を乾かしありぬ一筵夕芽

夏の薬草 ベニバナ:キク科生薬名:紅花(コウカ)

ベニバナの原産地はエジプトです。地中海沿岸からシルクロードを経て、中国・朝鮮を通り、飛鳥時代に日本にやってきました。 万葉集にも多く詠まれ、古名は末摘花(すえつむばな)、紅藍(べにあい)、久礼乃阿為(くれのあい)、久礼奈為(くれない)とも呼ばれ、梅雨時から梅雨明けにかけて、アザミに似た赤黄色の花を咲かせます。 江戸時代に、肥沃で水はけもよい山形県最上川流域が紅花の一大産地となり、昭和57年に山形県の県花として定められました。
乾燥させた花は紅花(こうか)と呼ばれ、産前、産後、腹痛、月経不順、更年期で更年期障害など婦人病一般に繁用され、血行促進作用があるので血行障害による、瘀血(おけつ)、打撲症、腫瘍にも使われます。
ベニバナの種子にはリノール酸が豊富に含まれ、食用油として使われ、血液中の動脈硬化予防やコレステロールの低下が期待されます。
また、ベニバナは古代染めの原料として用いられてきました。 花びらには水に溶けやすい黄色の色素サフロールイエローと水に溶けにくい紅色の色素カルタミンが含まれ、水にさらすことで分離をします。そして、いくつかの工程を加え、目的の色に染め上げます。
―紅(くれない)に衣染めまく 欲しけども 着てにほはばか 人の知るべき柿本人麻呂歌集より 万葉集で詠まれる紅(くれない)は、恋の歌です。素敵な女性のことを紅(くれない)に譬えています。

夏の薬草 ハス:スイレン科生薬名:蓮肉(レンニク)

ハスは日本では2000年前から自生をしていて、中でも大賀蓮は特に有名ですが、現在では中国からの渡来種が主流です。「神農本草経」にはハスの実(藕実:グウジツ)は百病の元を除く作用があると記載があります。 和名のハスは、古くは「ハチス」といい、果実が蜂の巣を連想させることから、「蜂の巣」→「ハチス」→「ハス」と変化したといわれています。
蓮肉(レンニク)は、ハスの通例、内果皮の付いた種子で、時には胚を除いたものです。内面が黄白色の充実したもので、緑色の芽を取り除いたものが良品とされています。 主要成分に、アルカロイドのロツシン、ジメチルコクラリンを含み、平滑筋弛緩作用が確認されています。 漢方では、鎮静、滋養強壮、健胃、止瀉を目的に、腎結核、淋疾、慢性胃カタル、貧血などに用います。
蓮の肥大した地下茎が蓮根で、食用とされていますが、食用として使用しない地下茎の節部は藕節(グウセツ)と呼び、吐血・胃潰瘍などの際の止血を目的に民間薬として使われていました。 また、種皮を蓮衣(レンイ)、胚芽を蓮心(レンシン)、葉を荷葉(カヨウ)、葉の基部を荷葉蔕(カヨウテイ)、葉柄や花柄を荷梗(カコウ)、花蕾を蓮房(レンボウ)、おしべを蓮鬚(レンシュ)、蓮根のデンプンを藕粉(グウフン)と呼び、ハスの様々な部位も民間薬として用いられていました。

夏の薬草 メハジキ:シソ科生薬名:益母草(ヤクモソウ)

メハジキは本州から沖縄、台湾、朝鮮・中国・東南アジアに分布する越年性の一年草で、やや肥沃な野原や河原、道端などに自生しています。花は7月から10月に咲き、紅紫色をしています。
メハジキの名は、茎を短く切って目に挟み、瞬きさせて遠くまで弾き飛ばす子供たちの遊びに由来し「目弾き」の意味があります。
生薬としては開花期の地上部を乾燥したものをヤクモソウ(益母草)といい、名のとおり、母の益になる薬草で、婦人の妙薬として、漢方処方では芎帰調血飲や芎帰調血飲第一加減といった、貧血を補い、産後の血の滞りを改善したり、脾胃に活力を与えたり、血の道症特有の神経症状を目標とした処方に配剤されています。
婦人病以外には高血圧や腹痛の薬として用います。
ヨ-ロッパでも洋種メハジキは同じ意味のマザ-ワ-トと呼ばれ、やはり婦人病の薬草となっています。

初夏の薬草 ユリ:ユリ科生薬名:百合(ビャクゴウ)

ユリはユリ科ユリ属の総称で、アジアを中心にヨーロッパ、北アメリカなど広く分布し、原種は100種以上を数えます。観賞用、食用、薬用に汎用される有用植物です。
生薬名は百合(ビャクゴウ)といい、2000年前の中国の薬物書「神農本草経」に収載されています。ユリ科のオニユリ、ヒメユリ、ハカタユリなどのユリ属の鱗茎の鱗片を乾燥したもので、日本産のものではヤマユリ、ササユリ、オニユリが利用されます。
デンプン、蛋白質、脂肪などのほか、微量のアルカロイドを含み、滋養強壮、消炎、鎮咳、利尿、鎮静薬として咳、吐血に利用されます。また、民間薬として、ユリの花粉をゴマ油で練ったものを切り傷やあかぎれに外用します。
美人の喩えに、「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」とありますが、漢方では「腹がたって、いらだった人に芍薬の根を、下半身に血が滞り座り込んだら動くのもおっくうな人に牡丹の根皮を、気もそぞろに落ち着きがなくなりふらふら歩きまわる人に百合の球根がよい」と言われています。
また、日本では古くから、ユリは祭りの中にとりこまれています。
奈良・大神神社の鎮花祭(4月18日)は厄病神鎮圧の祭りですが、その神前に「ユリの球根」が供えられ、奈良・率川神社の三枝祭(6月17日)では、ユリの花を手に巫女が舞を納めます。この時のユリは三輪山に自生しているササユリです。

初夏の薬草 シャクヤク:ボタン科生薬名:芍薬(シャクヤク)

シャクヤクは中国東北部、東シベリア、朝鮮半島原産で、古くから日本、中国各地で、薬用、観賞用として栽培されてきた多年生の植物です。
花茎の先に大型の花を咲かせます。花の色は、白を基本に淡紅色を始め多くの色彩に富んでいます。世界中で品種改良がなされ、今では3000種近い品種があります。
今から2000年前に著された「神農本草経」に芍薬の効能が「腹痛や知覚変調を除き、刺痛や発作痛をとり、利尿効果、精神の安定によい」と記されています。
漢方の要薬で、特に婦人薬として、月経不順や冷え症に用いる四物湯(芍薬、当帰、川芎、地黄)や妊婦の産前産後の聖薬といわれる当帰芍薬散(当帰、芍薬、川芎、茯苓、朮、沢瀉)を始めとして、多くの処方に配剤されています。
また、筋肉の痙攣を和らげる作用があり、腹痛、疼痛、下痢に用います。中でも芍薬甘草湯(芍薬、甘草)は急に起こる筋肉の痙攣によく効き、神経痛、胃痙攣、胆石の疝痛に著効です。原因が分からず突然に腹痛を訴え、長時間その痛みが治まらない幼児に頓服させると、間もなく痛みが引きます。
「うす紅のなかにひと花白妙の匂ひあまれる芍薬の花」
と大田水穂は白いシャクヤクの妙香を詠んでいます。一方、生薬の芍薬も白い花がよいといわれていますが、その効果には差がありません。

夏の薬草 ヒマワリ:キク科ヒマワリ属生薬名:日向葵子(ひゅうがあおいし)

ヒマワリは英名をサンフラワーといい、北米原産の一年草です。ヒマワリの和名は、太陽の動きにつれて、太陽を追うように花が回るといわれることからきていますが、この動きは生長に伴うための動きで、実際に太陽を追って動くのは若い茎の上部の生長の盛んなところで、朝に東を向いていたのが、夕方には西を向きます。日没後に起き上がり、夜明け前には東向きに戻ります。生長するとともにこの動きは小さくなり、蕾のころはほんの少し、花が咲くころにはほとんど動かなくなります。
ヒマワリの大輪はキク科の花の特徴である多くの花の集まりです。周りに雄ずいや、たまには雌ずいがない一列の舌状花が並び、中央に両性の管状花が密集しています。 種子が熟するころに、花托から取ってそのまま乾燥し天日で乾燥します。その種子を「日向葵子」と言います。
種子からは、ヒマワリ油をとります。ヒマワリ油には、リノール酸が多く含まれ、高脂血症の予防や、高コレステロール濃度を下げる働きがあります。
なお、生薬としての「日向葵子」は出血性下痢に用いられます。

夏の薬草 アマチャ:ユキノシタ科アジサイ属生薬名:甘茶(アマチャ)

アマチャはアジサイの仲間です。植物学的にはヤマアジサイと同一のもので、ヤマアジサイの甘みの強い固体であるといえます。
7,8月頃、各枝先に青紅紫色の散形花序を咲かせますが、周辺の花だけは4枚の紅紫色または白色のがく片が発達し、いろどりを添えます。
9月頃、葉を採って水洗いをし、半日陰で乾燥し、一夜積み重ねて発酵させた後、よく揉んで、陽乾すると甘味が生じます。これが生薬の甘茶です。生葉にはグルコフィロズルチンが含まれていて、これには甘味はありませんが、発酵させることで酵素により加水分解をうけて、砂糖の1000倍もの甘さのフィロズルチンになるのです。
甘茶は甘味が強いので、糖尿病患者の砂糖代わりの甘味料に使われたり、甘味矯味薬として、家庭薬の丸剤や医薬部外品の口中清涼剤として用いられています。
4月8日の「花まつり」には、天地を指さし「天上天下唯我為尊 三界皆苦吾当安之]と言われたときの釈迦像に、甘茶をかけてお祝いをします。この甘茶は竜王が産湯(うぶゆ)として、甘露の雨を降らせたという伝説に因んでいるようです。